メニエール病のこと、公開します

なんとかメガコンペティシヨンに勝ち残り、アジア・太平洋地域の情報・金融の中核都市として位置づけられなければならないいまのままではアジアのローカル都市に転落してしまう。 ビジネスタイムの魅力だけではなく、そこで「暮らす」ことができてこそ、人の集まる快適な環境といえよう。
この点で日本の都市は世界の主要都市に比べて著しく遅れている。 たとえば、マンハッタンの面積は六二ニ九ヘクタール、人口は一五三・六万人、人口密度は一ヘクタールあたり二五O人である。
ビジネス人口は約三OO万人だ。 東京では千代田区・中央区・港区・新宿区の都心四区が六O三三ヘクタールでほぼ同じ面積。
ただしビジネス人口こそコ二四万人とほぼ同じだが、人口は五二・二万人、人口密度は八六・六人と約三分の一という状態である。 つまり、ニューヨークでは、オンタイムもオフタイムも、マンハッタンで過ごす人が多いのに比べて、都心四区では、仕事のために集まる人はいるが、そこでくつろぎ、暮らす人は少ないということである。
彼らはいったいどこへ帰っていくのか。 それが埼玉都民や千葉都民、あるいは神奈川都民と呼ばれる存在なのである。
都心四区に通勤している人の平均通勤時間は、往復で二時間二O分ということだ。 その時間も、読書や睡眠にあてられれば幸運なほうであろう。
かなりの人が、すし詰め電車での往復を余儀なくされている。 それでは暮らす魅力にあふれた都市にふさわしい条件として、どんな点があげられるだろうか。

人々が仕事だけではなく、芸術的にも文化的にも、より快適な時間をもつためには、それに応じたスペースが必要とされるはずである。 まずは生活するための住居の問題があげられる。
日本の住宅事情は、量的には充足しているものの、一戸あたりの床面積が狭く、質的には低水準にある。 たとえばアメリカは一五一平方メートル、日本は八六平方メートル、東京の区部では五五平方メートルだから大違いだ。
住空間の拡充は、O総理が進めている「生活空間倍増計画」の重要なポイントであり、とくに都市住民にとっては切実な要望である。 わが国の生活の質を考えると、衣食については世界の先進国と比べても遜色はない住宅についてはいまだ発展途上国の中産階級レベルである。
まさに「衣食足りて、住なし」である。 これでは世界のなかで、魅力ある都市として評価されるわけがない。
さらに公園など、自然に親しむ緑の豊富な空間が必要である。 人間も動物の一種類であるからには、自然とまったく隔絶された環境では生きられない。
裸足で土の上を歩くような感覚を忘れてはならないだろう。 だが、大勢の人が集まる都市で、どうやって緑のスペースを確保するか、ここでも発想の転換が必要である。

ヨーロッパの都市では、人々は最初から石造りの中層住宅に住み、個人の庭の緑を確保することはあきらめた。 代わりに大きな公共スペースを確保し、そこを緑で埋めたのである。
大都市パリの東と西には、バンセンヌとフローニュの森があり、ブリユツセルにカンブルやソワーニュの森があるように。 またアメリカではニューヨークの中心にセントラルパークがあるように。
ところが日本の都市は、田園と同じ木造二戸建て住宅の集まりである。 個々の家はさほど広くないが、それぞれが庭をもち、緑を確保していたので、公共のスペースを緑で埋めるという発想が生まれなかった。
日本の都市はいわば「巨大な田舎」だったのだ。 戦後、急激に人口が膨れあがり、建物が中高層化され、庭付き住宅がつぶされていった。
細々と緑を守ってきた個人の庭が失われたが、それに代わって公共の緑を確保する努力が十分に行われたとはいえなかった。 都市全体としての緑が少なくなってしまったのである。
土地がほとんどなく、これでは人間の生活する場として息苦しい。 都市では個人の庭をあきらめる代わりに、公共の緑を確保するように、考え方を改めていく努力が必要だろう。
では、実際にどんな方法をとれば、限られた面積の都市に、これらの空間をつくることができるだろうか。 東京にも、探せばまだまだ眠っている空間はある。
都市問題対策協議会がまとめた提言の整備目標でも示し、また、経済戦略会議委員でもある森ビル社長、森稔氏が「アーバンニューディール政策」として提案している「平面過密、立体過疎」から「土地の高度利用によるオープンスペースの確保」へという考え方にふれてみたい。 狭いスペースに多くの人が住むためには、集積した住み方が必要である。
現在、東京の環状六号線の内側の建築物が平均二・九階と聞けば、意外に思われる方も多いだろう。 それを四・O階に引き上げるだけで、多くの居住スペースを生みだすことができる。

ある試算によると、オープンスペースを確保して敷地の共同化を図れば、三大都市圏の都心地域で一00万戸の住宅供給を増やせるという。 都心四区の面積の約二五%を容積率一000%、一人あたり(一戸あたりではない)居住面積五0平方メートルの条件で改造すると、人口密度をマンハッタン並みの二五O人にすることができる。
事業費は二二兆1二八兆円と見込まれている。 こうした案を実現するには、法的なバックアップが必要になる。
容積率割り増し・移転制度や、日影・斜線規制の緩和の制度を積極的に活用することで、東京区部など都心部の容積率利用率を引き上げる。 たとえば、東京区部において容積率の利用率を七割(現在五割)に引き上げれば、新たなオープンスペースを十分に生みだせるのである。
さらに効率的に都市の整備を進めるには、第I部でもすでにふれたが、もっと空中権や容積率の譲渡を自由にすることである。 ニューヨークの五番街では、一九八0年代のはじめに、古い教会の空中権を隣地が購入して高層ビルを建てた有名な事例がある。
さらに、離れた土地の容積率も譲渡できるようにし、バブルの後遺症ともいうべき虫喰い状態の土地をまとめて公共用地として国や地方自治体が購入し、将来、公有地として活用していくべきだろう。 容積率を緩和して住宅を中高層化すれば、現在の宅地の半分は、住宅以外のスペースに転用できる。
道路の拡幅も可能になる残ったスペースは公園や緑地にすればいい。 集積して住むためにギブアップした個人の緑を、公共スペースとして確保するのである。
その緑も、できるだけ身近に確保するにこしたことはない。 ひとつのアイディアとして、私は以前から「市松街区」を考えている。
ブロックのひとつひとつを完全に住宅か緑地かに分けて、互い違いに配置する。 こうすれば都市に特有の日照権問題も解決する。
各家庭が狭い庭に細々と盆栽のような庭をつくるよりも、ずっとたくましい自然が身近になるのである。 思い切り空気を吸い、風を感じる空間は、公共の緑のなかで手に入れる。

自宅の窓からは、四方に広がる大空に向かう開放感が手に入る。 高層の建物と三1四階の中層の建物を組み合わせ、市松あるいはゼブラ模様のように、緑の空間を確保する。
都心での生活は「日照権」といった狭義の開放感ではなく、「天空権」という新しい発想の開放感を大切にした住空間が、の主流になっていくのではないだろうか前記のような「空中権の売買」というダイナミックな考え方に基づいたビッグプロジェクトが、日本でも一九九七年に新宿・初台のオペラシティで実施された。

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